
近年、建設現場ではベトナム・インドネシア・フィリピンなど、さまざまな国籍の外国人労働者が活躍しています。
「特定技能」や「技能実習」制度を利用して来日するケースも増えており、今や日本の建設業を支える存在となっています。
しかし、現場作業には常に危険が伴います。転落・転倒・挟まれ事故など、労災リスクは日本人・外国人を問わず誰にでも起こり得ます。
本記事では、外国人労働者が労災事故に遭った際の正しい対応手順と、労災保険をはじめとする社会保険制度について詳しく解説します。
外国人労働者が業務中にケガ・病気をした場合の基本対応
まず知っておくべきことは、外国人労働者も日本人と同様に労災保険の対象となるという点です。
国籍を問わず、雇用契約を結び賃金を受け取って働いている場合、労災保険の適用を受けることができます。
外国人だからといって何か受けられないサービスがあるということはありません。
① 労災指定医療機関で受診する
ケガや病気をした際は、労災指定医療機関で受診します。
その際に提出する書類は以下の通りです。
- 業務災害の場合:様式第5号「療養補償給付たる療養の給付請求書」
- 通勤災害の場合:様式第16号の3
指定医療機関での診療費は全額労災保険でカバーされるため、窓口での自己負担はありません。
厚生労働省の公式サイトから様式をダウンロードし、職場で常備しておくとスムーズに対応できます。
労災指定医療機関とは?
「労災指定医療機関(労災指定病院)」とは、厚生労働省(または労働基準監督署)から 「労災保険による治療ができる」 と正式に指定された病院・クリニックのことです。
もし指定されていない病院で受診すると、一時的に自費(健康保険扱い)になることが多く、後日、労基署に請求して払い戻しを受ける「償還払い」という手続きが必要になります。
労災指定医療機関はどうやって判断するの?
以下の3つの方法で確認できます。
① 厚生労働省・労働局の公式サイトで検索
都道府県ごとに「労災指定医療機関一覧」が公開されています。
検索ワード例:
「東京都 労災指定医療機関 一覧 PDF」
「大阪府 労災指定病院 名簿」
一覧には、
- 病院名
- 所在地
- 指定の範囲(外科のみ・歯科含む など)
が掲載されています。
② 病院の受付・窓口で確認する
多くの労災指定医療機関では、受付カウンターや掲示板に「労災保険指定医療機関」と書かれたプレートやポスターが貼られています。
わからない場合は「こちらの病院は労災指定ですか?」と聞けばすぐ教えてもらえます。
③ 労働基準監督署に問い合わせる
最寄りの労働基準監督署でも、指定医療機関を教えてもらえます。
特に地方や郊外ではネット情報が古い場合もあるので、確実に確認したいときはここが一番早いです。
もし指定外の病院に行った場合は?
もし、誤って「指定外の病院」で受診した場合でも、後「療養費用の請求」を行えば、かかった治療費が労災から払い戻されます。
ただし手続きが複雑(領収書・診療明細の提出が必要)で、払い戻しまでに時間がかかるため、最初から労災指定医療機関に行くのがベストです。
② 日本人スタッフまたは通訳の同行
外国人労働者が単独で病院に行くと、症状や事故状況の説明が十分に伝わらない場合があります。
言語の違いによる誤解や不安を防ぐためにも、受診時は日本人スタッフまたは通訳者の同行が望ましいです。
同行することで、事故の詳細や症状を正確に伝達できるだけでなく、精神的な安心感も得られます。
またどうしても同行できない場合でも、電話で病院の方に説明をするなどしてサポートしてあげましょう。
③ 労働基準監督署への報告
労災が発生した場合は、労働基準監督署への報告(労働者死傷病報告)が必要です。
提出期限は以下の通りです。
| 労災の状況 | 提出時期 |
|---|---|
| 死亡・4日以上の休業 | 事故発生後、速やかに提出 |
| 4日未満の休業 | 3か月ごとにまとめて報告 |
提出先は「事故現場を管轄する労働基準監督署」です。
会社所在地と異なる場合もあるため、管轄の確認を事前に行っておきましょう。
④ 労災保険給付の申請
労災保険の給付は申請主義です。
原則として労働者本人が申請しますが、外国人労働者の場合は書類の内容が難しいため、事業者がサポートすることが大切です。
外国人労働者も労災保険の対象となる理由
労働基準法・労災保険法における「労働者」には国籍の制限がありません。
そのため、雇用契約のもと賃金を受け取って働く外国人はすべて対象となります。
また、「特定技能」や「技能実習」などの在留資格で働く場合、受け入れ企業には労災保険加入義務があります。
特定技能基準省令第2条でも、「特定技能所属機関は労災保険の適用事業所であること」と明記されています。
労災保険以外に外国人が加入すべき保険制度
外国人労働者も日本人と同様に、複数の社会保険制度に加入します。主な制度は以下の通りです。
- 健康保険:常用雇用者は加入義務あり。医療費3割負担で診療可。
- 国民健康保険:短期雇用・アルバイトなどが対象。
- 厚生年金:正社員やフルタイム勤務者が加入。将来の老齢・障害・遺族給付に対応。
- 国民年金:フリーランスや非雇用者向け。
建設業における外国人労働者の労災発生状況
厚生労働省の統計(令和6年)によると、建設業では外国人労働者の労災事故が1,165件発生しています。
うち死亡事故は16件にのぼりました。
| 事故原因 | 発生件数 |
|---|---|
| 墜落・転落 | 222件 |
| はさまれ・巻き込まれ | 199件 |
| 飛来・落下 | 156件 |
特に「墜落・転落」が死亡事故の大半を占めており、安全教育や足場点検の徹底が求められています。
外国人労働者の労災を防ぐための取り組み
1. 母国語での安全衛生教育
日本語のみの説明では誤解が生じやすいです。
ベトナム語・インドネシア語・ミャンマー語など、母国語での教育資料や動画を用意しましょう。
2. 多言語での現場標識
注意喚起サインを多言語表記にすることで、事故防止効果が高まります。
3. 日常的なコミュニケーション
体調や疲労を確認する習慣をつけ、小さな異変を早期発見します。
「体調不良を報告してはいけない」という誤解をなくす教育も重要です。
4. 医療用語・症状を伝える日本語教育
「ズキズキ」「ヒリヒリ」などの日本語特有の表現を学ぶことで、症状を正確に医師へ伝えられます。
医療通訳が不足している地域では、このような基礎教育が大きな助けになります。
まとめ|外国人労働者も安心して働ける現場を
外国人労働者が業務中や通勤中にケガ・病気をした場合、労災保険は日本人と同様に適用されます。
ただし、スムーズな対応のためには、日本人スタッフによる同行・支援が欠かせません。
一人親方部会グループでは、建設業で働く外国人労働者の安全と権利を守るため、労災保険の特別加入サポートや、安全教育の支援を行っています。
安全で安心な現場環境を整えることが、日本で働くすべての人の未来を守る第一歩です。

